グラスの中の氷が立てる音

ガラス越しの柔らかい光

―――君のいる休日の戯言






昼寝




盆の上にグラスを二つ。

階段を上る度に揺れが伝わり、薄い緑色の液体の中で氷が時折グラスにあたって澄んだ音を立てている。

鼻腔を擽る爽やかな香りは疲労回復を願ってのアイス・ミントティ。

披露回復効果など狙いすぎだ、と彼に呆れられてしまう確率は相当高い。

外では素直な感情をあまり露にしない彼がそうしてよく俺に呆れてみせるのは、どこか俺に甘えているからで、

心底呆れているわけじゃなく、すぐに小さく笑ってくれるはず。そんな表情を見るのが愛おしくて仕方が無い。

自分でも制御しきれていないだろう彼の小さな表情の変化を楽しめるのは恋人の特権だ。

彼の新しいそれを見つけるたびに、厭きることなく胸には一つ熱が篭もっていく。

時間は既に正午をすぎている。学校が休日とはいえ、普段ならこんな時間まで共に緩やかな時間を過ごすことはお互いに考えられない。

いくら夜に甘い時間を過ごせたとしても、どちらか、大半はどちらもが翌日にハードな練習を抱える身では、

とてもじゃないが優雅にハーブティなど楽しむ時間があるわけなく。

精々事後に共に眠る位のささやかな楽しみを名残惜しく満喫するのが精一杯。

そんな厳しい部活の僅かな休みが、幸運にも互いに重なったとなれば、夜の行為に拍車がかかるのも当然で。

無理をさせてしまった相手が未だ布団の中で深い眠りの中にいる確率は80%以上だろう。

片手に盆を持ち変えて自室の扉を開けば、俺の予測を上回る事の多い彼も、やはり未だベッドの中であどけない寝顔を此方に向けていた。

氷の音を小さく鳴らしながら盆を机の上に置き、彼が寝息を立てるベッドを軽く軋ませて腰かける。

暑さが残る夏の終わり、素肌を薄手の布団に包んで眠る彼に合わせて冷房は入れず網戸から入り込む風に室温を任せている。

のぞきこんだ寝顔に寝苦しさはなく、穏やかで幼い。薄い唇が僅かに開き一定のリズムを刻んでいた。

指先を伸ばして乱れた前髪に触れ、少年らしい丸みから卒業した頬へ輪郭を確かめるように滑らせる。

彼の整った造作は眠りの中でも、むしろ眠りの中の方が幼く表情豊かで、見ていて飽きる事がない。

ただ、幼い頃から彼の眠りは浅くなかなか寝顔を見ることを許される機会が無かったのだが。

―――その頃に比べて、今の俺に彼が穏やかな寝顔を見せてくれる価値があると自惚れて良いのだろうか。

傍にいることが、彼がいつも共にあるチームメイト達にも劣らぬ意味を持てているだろうか。

(こんな事を言うとまた口をきいてくれなくなりそうだけれどね)

俺が自信の無い言動を口にすると、決まって眉を寄せながら説教を始める相手の表情を思い浮かべ、

思わず口元に弧を描きながら腰を屈め、頬にそっと唇を寄せ軽く口付けた。

起こすつもりだったけれど、今はやめておこう。ミントティなら、また淹れ直せば良いから。





今は眠りの中の君と、それを眺める俺との小さな世界の中で。






                                       終。